やはり糾弾せねばなるまい

会場を出た先の下り廊下の踊り場で長老とS社長がイベント関係者を呼び付けて早速クレームを入れていた。

この怒りは至極当然だ。
ファン心理の理解云々の前に、イベントでの注意事項に含むべき事を事前告知しなかった、主催であるワニブックス側の不手際であることは明らかなのだから。

因みに書店はイベントの会場を貸与しているにすぎず、タレントを出すプロダクションはあくまで主催側の意向に従って動くだけなので、今回は何の罪もない。

無論告知の責任は開催店舗にもあるのだが、長老の話によれば、前日に店舗に電話を入れてプレゼントの手渡しについては今のところ出版社側から何も言われていないので大丈夫ではないか、との返事をもらっていたという。

あえていうなら店側としてもこの時点で気を利かせていれば出版社に確認して告知する事も出来たはずだが、店側がアイドル系イベントに慣れていない事もあるので今回ばかりは連携不足を強く責められない。


当初は書店側の人間を捕まえていたが、長老達の怒りは収まらず、ついにはイベント責任者というワニブックスの人間が現れクレーム対応を始めた。見れば先程会場内でプレゼント渡しを止めに入った人物の一人だ。

しかし長老から何を言われてもただ『すみません』としか言わない。
流石にこれでは埒があかないので、具体的な質問をぶつけてみる。

『あなた方は今日のイベントを企画した時に、市川さんの誕生日当日になるって知ってました?』

『ハイ』

『なら、大勢のファンがプレゼントを持ってくることは予想できてたはずだよね?』

『…うち(ワニブックス)としては最初からそのつもり(プレゼントは手渡しさせない予定)だったので…』

つまりは、客に告知すべき事を知りながら、何も言わなくても客は自分達の指示に従うものだと勝手に解釈していた、と証言したのと同じだ。
同時に自分達の作った本を買ってくれる客に対しての関心がまるでないこともハッキリ露呈した。


以前から一部メーカーの客に対しての高飛車な態度をここでも問題にしてきたが、特に某大手プロダクションの息がかかったワニブックスもその例に漏れない。

彼等は本の売り上げを伸ばす事だけが第一であり、お客の気持ちやブッキングしたタレントの事など何とも思っちゃいない。
お客は自分達に金を落としていけばそれでOKなのだ。

バックに大手プロダクションが控えてるから客が何を言おうがタレントを押さえている方が勝ち。
そういう体質が末端まで染み付いてしまっている。
現に現場責任者を名乗った人物が伏せてた顔を上げた時の目を見たら、謝るどころかこちらを睨みつけてきていた。

これにはカチンときて

『あんた、さっきのやり取りで市川さんが下向いちゃって首降ってたの見ました?』

『…』

『折角誕生日当日のイベントで盛り上げなきゃならないところなのに、逆に彼女の方が申し訳なく思っちゃってさ…あれじゃ俺らはともかくタレントさんが可哀相じゃないの?』

『…』

『しかも何だあの対応は?寄ってたかってタレントの目の前で段ボールにプレゼント入れろって…持ってきてるものは宅急便じゃねぇんだからよ!』

『…スミマセン…』

長老が引き継ぐ。

『さっきからスミマセンじゃねぇよ!!
 こっちはタレントの前で恥かいたんだよ!
あんな目の前でアタフタしちゃってさ…あんたらのせいで台なしだよ!! どうしてくれんだよ!!』

このイベントに賭けていた長老の怒りは沸点に達していた。
だがただでさえイベントの時間が短い上にこんなことで振り回されては時間の無駄だ。
取り敢えず切り上げて次の周回に向かわなければならない。

ヤレヤレやっと終わりだ、といった表情を見せながら立ち上がった担当者に、自分はわざと捨て台詞を残した。

『客を粗末にしてると、そのうち潰れるぞ!』

と。

それを聞いてギョッとした表情を自分は見逃さなかった。