オトシモノ

一言で言うとホラー映画というよりも「ホラーを題材にした友情物語」。
実際に制作者もそれが狙いだったみたいだし、こっちもそういう具合に見えたんだから成功なんだろうけど「じゃぁ作品として面白かった?」と言われれば「ノー」だ。
というのも、前半は割とテンポよく進んでいくのでまぁ観れるのだけど、後半になるとそれまでの伏線を一気に解決しようとして、最後にはストーリーとして破綻してしまっているから。ホラーなんだから多少の謎解きをわざと残しておいて観客に想像させるって感じでもよかったんじゃないか?と思うのだけど…
それに「映画なんだから」というにはちょっと納得し辛い場面もいくつかあった。説明が必要となるので、ここでクライマックスまでのストーリーラインを説明しておく。
※ココから先はラストシーンのネタバレを含みます。
謎の失踪事件を独自に追っていた職場の先輩・川村(板尾創路さん)が落し物保管所の壁に「見た」という血文字を残して惨殺された現場を目撃した電車運転士の俊一(小栗旬さん)と奈々(沢尻エリカさん)。川村が自分のロッカーに保管していたスクラップファイルの中から失踪事件の元凶と思われる「青沼八重子」の遺体が発見された場所が「水無トンネル」であることを知る。
ファイルによると「青沼八重子」は路線の上を通る陸橋から走ってくる電車の屋根に転落し、やがて遠心力により「水無トンネル」の内部で落下。重傷を負った八重子は必死に助けを求めるが人気の無いトンネルではそれも叶わず、ついに死亡してしまう。八重子がなぜ陸橋から転落したのか?自殺なのか他殺なのか?目撃者もなくその原因は未だ明かされていない。また遺体発見後の司法解剖で八重子が当時妊娠中であったことが確認されていた。「返して…」という八重子の呟きは産み落とされることの無かった子供のことなのか?
「水無トンネル」付近では八重子の事件以前にも数多くの失踪事件が起こっていた。川村は生前、「この路線が異様な曲がりくねり方をしてるのは、トンネル工事をしていた当時『何かをヤバイものを掘り当ててしまい、それをまた埋めた』からだ」と言っていた。そして「世の中には知らなくていいこともある」とも。川村はその何かを「見た」から殺されたのだとしたら…?
全ての謎を解く鍵は「水無トンネル」にある。失踪した妹もそこに…?そう直感した奈々は、妹を救うため、俊一と一緒に「水無トンネル」に向かうことを決意する。
一方「八重子の呪い」によって死んだと思われていた香苗(若槻千夏さん)は、久美子(杉本彩さん)という黒衣の女性に助けられていた。久美子もまた息子を「八重子の呪い」で失った過去があり、後日幽霊となって現れた息子に襲われて自らの右目を失っていた。それ以降、度々水無駅に現れては独自に失踪事件を調査していた黒衣の久美子を、香苗は恐怖のあまり八重子だと思い違いをして気を失ってしまったのだ。香苗の嵌めているブレスレットを見て「八重子は危険な存在。これ以上駅に近付いてはならない」と告げる久美子。その言葉に奈々のことを思い出した香苗は、自分が落とした携帯に電話する。お互いに無事だったことにホッとする間もなく、奈々は妹を救出するためトンネルに向かう決意を告げると電話を切ってしまう。しかし香苗は、この事件がきっかけでやっと心から信頼できる初めての友人となった奈々を助けるべく、自らも呪いの危険に晒されることを承知の上で、久美子を説得し共に「水無トンネル」へと向かうのだった。
香苗と久美子は、久美子の車で「水無トンネル」近くの踏切にやってきた。覚悟を決めるように手前で一時停止したところを突然謎の力に支配されてしまう。久美子は車外に放り出され、香苗を閉じ込めた車はゆっくりと踏切に進入してせんろを跨ぐようにして止まった。香苗は自力で脱出を試みるものの、ついに姿を表した八重子の霊に邪魔をされて思うようにいかない。そこに電車の灯りが迫る…。呪いから逃れられないと悟った香苗は、久美子に「奈々を助けて!!」と絶叫し車ごと電車に轢かれて絶命する。
同じ頃、奈々と俊一は人気の無い車両整備場に居た。運転士である俊一が車両を盗み出してトンネル内に向かおうというのだ。車両を動かすためのキーを手に入れ出発しようとしたところに現れる久美子。その口から香苗の最期を聞かされた奈々は悲しみに打ちひしがれながらも、決意を新たにして3人でトンネルの謎に向かうのだった。
第1の疑問。
香苗が巻き込まれた列車事故は、普通に考えればかなり大規模なものだ。周囲にあまり人が居ない場所という事を割り引いても、首都圏近郊の沿線ならば運行状況は全て集中管理センターが行なっているので、事故が起こったことは瞬間的に判断できる。となれば、車両整備場が無人であるはずが無い。こういうところは普段から夜間作業が当たり前だし、事故が起こったら作業車だって動かさなきゃならないはずだ。
そして運転士の俊一が車両を動かせるのはまぁよいとして、ポイント切替えなんかはどうやってやるんだ?整備場から本線に入るには、必要な運行手順がある。それを一手に握っているのはやはり集中管理センター。現場でも危機管理マニュアルなどを使えばなんとかなるのかもしれないが、そんな危険を伴うことを同じ組織内とはいえ一介の運転士が予め知ってたりするだろうか?偶然その必要が無かったとか、呪いの力が奈々たちをトンネルに引き寄せようとしているとか、理由はいくつか考えられるけど…
まぁ人があの場にゾロゾロ居たらすぐ止められちゃってストーリーが続かなくなる(笑)ので、次に進もう。
トンネルの中で電車を止めた3人。久美子は「運転士のあなたが居なければ脱出する手段が無くなる」と俊一を電車に残るように言う。「必ず戻るから」とトンネルの奥に進む奈々と久美子。八重子の遺体発見現場である大きくカーブする個所まで辿り着いたところでついに八重子の霊が姿を現した。凄まじい力に奈々はトンネルの壁に叩き付けられるが、その壁が崩れるとその奥には謎の洞窟が広がっていた。「ココが封印された場所!?」久美子は八重子の注意を自分に引き受け、奈々に全てを託し洞窟の奥にある全ての元凶を確かめるように言う。
薄暗い洞窟の奥を進む奈々は、途中で不気味な像を見つける。ココは昔何かを祀っていた場所なのか?一体過去に何が行なわれていたのだろう?疑問を持ちつつ更に奥へ進むとそこには小高い山があり、その上にようやく妹・範子の姿を発見する。急いで範子のところに駆け寄る奈々。意識を取り戻した範子は多少衰弱しているように見えるが、幸いにも無事だった。しかしその山と見えたのは、実は八重子の力によって失踪し死霊となった過去の被害者たちが幾十にも折り重なったものだった!
急いで逃げ出そうとする奈々たちに死霊の群れが襲い掛かる。そこに間一髪現れ奈々たちを救う久美子。しかし自らは山の下に植えられていた杭(供養の卒塔婆?)に腹部から落とされて串刺しになり命を落とす。その姿は妊娠中に亡くなったとされる八重子の姿にも重なる…。
第2の疑問。これは多分誰でも「?」思うだろうが、「なぜ範子だけが無事だったのか?」ということ。
範子は「八重子の落とした赤い定期券」を拾ったが為に八重子の支配する異世界=謎の洞窟に攫われた、いってみれば「呪いに取り込まれた最たる存在」である。範子の同級生・孝が同じようにさらわれ悪霊となって奈々の前に現れたことを考えれば、範子が無事である理由はない。久美子などは間接的に呪いに係っただけで右目を失ったぐらいなのだから。
これが前半の伏線で「奈々からお守りを持たされていた」とか具体的なシーンがあれば「あぁ、なるほど」と思えるのだが、この謎については結局本編最後まで明確な理由が語られること無く終わる。「姉の想いが妹を守った」とか言われても、アニメじゃないんだからそこまでご都合主義がまかり通ってしまうと…ね。
次々と迫る死霊の群れを振り切り元来たルートを逃げる奈々と範子。ようやく出口の直前まで戻ってきたものの最後の長い階段を上っている途中で突然奈々の足元が崩れる。奈々はかろうじて指が縁にかかっているが自力では登れそうにない。奈々は範子に1人で先に逃げるようにいい、ついに力尽きて指が外れたところを間一髪救ってくれたのは…死んだはずの香苗!?
いや、そう見えたのは幻で、実際に助けてくれたのは電車で待機していたはずの俊一だった。戻りが遅い奈々を心配して洞窟の内部まで来ていたのだ。3人は再び電車に乗り込みトンネル内部にまで出てきた死霊どもを振り払い辛くも脱出に成功する。朝焼けの中、次の駅で電車を止めた俊一は「あのトンネルをこのままにしておくわけにはいかない」と奈々たちに言い残し姿を消す。
数日後、心臓病で病院に入院中の母を見舞った後、そのロビーのTVで臨時ニュースが流れる。「水無トンネル」がダイナマイトで爆破され、その犯人として俊一が自首してきたというのだ。奈々は俊一の言葉を思い出し、隣にいる範子に「全て終わった」と優しく語り掛ける。
無人の駅に1人佇む奈々。ふとそばのベンチを見ると香苗がこちらを見ている。まるで「これからもずっと一緒だよ」と言っているように。奈々は微笑んで空を見つめる─────。
  -fin-
第3の疑問。俊一はダイナマイトをどうやってに入手したのか?
ダイナマイトのような危険物は素人が簡単に手に入れられるものではない。もし手に入れることが出来たとしても、川村の死体が発見された直後に姿を消せば事件の重要参考人として必ず指名手配されるだろうから、トンネル爆破できるだけの量のダイナマイトを持って現場周辺をうろつけば真っ先に警察に見つかる可能性が極めて高い。それで無くとも無断で電車を動かしたり不審すぎる行動もあったわけだから。
確かに「すぐに手を打たないと犠牲者が増える一方になる」という思いは俊一にあるだろうが、相手は「人知を超えた力を持つ存在」である。「穴を完全に塞いでしまえばいい」と思い立ったにしても、全ての元凶と思われていた八重子でさえその「力」の被害者の1人に過ぎなかったのだ(八重子自身の強い怨念のがその「力」を呼び覚ますきっかけになったのだろうが)。とても1個人で対抗できる相手ではない。
八重子や他の犠牲者の例をみるまでもなく、もし自分が呪いの力に支配されてしまったら?事の重大さを考えれば、自分の他にこの事件の真相を知る唯一の存在である奈々にだけは、自分のやろうとしていることと、自分の計画が失敗した場合の対処を手紙ででも伝えるんじゃないかと。例え奈々が今回の事件のことを正直に他人に話したとしても簡単に信じてもらえないだろう。しかしそれを承知でもしもの時は奈々に後を託すしかないと、普段から運転士として危機管理に敏感な俊一ならば当然あってしかるべき思考だと思う。
まぁ映画の中でそこまで詳細に描く必要はないけど、俊一の覚悟と共にそれらしい部分があって良かったんじゃないかと。
あとこれは疑問ではないのだが、奈々って冷たすぎやしないか?
仮にも自分の絶体絶命の危機を救ってくれた恩人だぞ?なのにTVニュースで俊一が逮捕されるのをみて「あぁ、決着つけてくれたんだ?」ぐらいにしか思っていないってのはどーゆうこと?俊一は自分の人生が破滅するのを知っててあそこまでやったんだぞ!自分たちだけ助かってりゃそれでいいのかよっ!?
それにね。奈々は当初、妹の失踪事件について見て見ぬ振りをしていた俊一を「知っているのにどうして何も教えてくれないの?」と散々問い詰めた末に、最終的には妹の救出を手伝わせているのだ(しかもその際電車を盗み出すという罪まで犯している)。
確かに俊一は俊一で正義感に燃えてトンネル爆破を起こしたんだろうが、彼がいなければ妹を助け出せなかったし、自分も救ってもらえなかったのは事実。例え様の無い恐怖に「これ以上首を突っ込みたくない」という気持ちもわからないではないが、あの場面で俊一の身を真っ先に案じないのは、男女の仲ということを差し置いても人間的にどうなのよ?って思っちゃう。シチュエーション的にはベタドラマよろしく俊一が奈々の「白馬の王子様」になったって全然おかしくないんだしさ(かえってそのほうが自然に見えるよ★笑)
なんかこのシーンで主人公に対する思い入れとかスッ飛んじゃったよ。┐(;´Д`)┌
実際映画の中でも真面目だけど友達がいないって役柄だったけど、
こんな自分勝手なヤツ、どんなに可愛くても友達にはなりたくない
よね。
東劇でやるような映画なら上映後にパラパラとでも拍手が起こって良さそうなかんじだったけど、実際に拍手が1つも起こらなかったのは、映画の出来よりもこのことのほうが大きかったからじゃないかと思う*1。映画を観終わった後、物語の主役に憧れも共感も抱けないのでは、拍手なんてしたいと思わないでしょ?ましてストーリー的にも破綻しちゃってるのだから。
監督の古澤健氏はホラー映画でそれなりに実績を積んできた人だけど、共同で脚本を描いたもうひとりのT氏(女性)のプロフをパンフで観たら、過去に「銭形愛」とか「ライオン先生」をやってたらしい。映画脚本は今回が初挑戦だったみたいだけど、なるほどTVのご都合主義で生きてきたっぽいよなぁと。おそらくホラーの部分を監督、それ以外の部分をこのT氏が書いたんだろうけど、力量さがモロに出ちゃったなーって。
映画だからウソや方便はいくらあってもいいけどサ、それにも限度がある。ジャンルとしてコメディーみたいに笑って誤魔化せないし。こんなんで「単なるホラーじゃなく友情を書きたかった」なんて言われても説得力ねぇわ。配給会社も良くこんな映画をそれなりにキャパのある映画館で3週間も上映させる気になったもんだ。てか、おそらくね。
 なんだこの駄作!? こんな作品であの沢尻エリカを主演させちゃったのか!?
 …ったくなにやってるんだ、ウチの連中は!!!
 でも使っちゃったからには、今さらお蔵入りって訳にもいかないよなぁ〜(;´Д`)
 彼女にはウチの別の作品にも出てもらうことも決まってるし…とりあえず1年間寝かせて、
 沢尻エリカの人気が安定したところで、名前とCMで誤魔化して客に来てもらうか?
 期間は…まぁ状況見てからだけど、コレじゃ商売として4週はキツイよな〜。
ってところなんでしょう(苦笑)
結論…キャストのファン以外はわざわざ劇場で観なくていいんじゃないですか?

*1:ホントは1人だけちょっと拍手してたんだけど、周りの反応見てすぐに止めた。おそらく拍手の主は痛いヲタで有名な「通称:ヤクルト」じゃないかと(笑)