東京大学物語

東京大学物語」 Cast:三津谷葉子/田中圭/浪岡一喜/範田紗々 他 監督:江川達也 製作:ソフトオンデマンド/SUPLEX

まさに「世紀の恋」。大人気コミック『東京大学物語』は世紀を越え恋に(&性にも)悩む若者達を魅了し続けた(小学館ビッグコミックスピリッツにて92〜01年連載)。東大入試を目前とした2人の高校生カップル、水野遥と村上直樹のひたむきで瑞々しく、そしてもちろんちょっとHな恋の日々......原作者・江川達也は連載開始時から映画化を想定。連載終了から5年の構想期間を経て、いま新たな形で名作を蘇らせる。「恋する男と女の気持ちのすれ違いを、もっとリアルに描きたい」と江川自身がメガホンを取ることを決意。原作とは異なる水野遥=女性の視線からドラマも描き直し、クライマックスはよりせつなくドラマチックに展開。21世紀最高の「世紀の恋物語」=『東京大学物語』がここに誕生した。
【公式サイト】東京大学物語の映画版の感想や評価まとめ

うーん…これは一言でいうと「作家・江川達也の復讐」に他ならないのじゃないか?
原作をしっかり読んでいなかったので、ストーリーは『あぁ、こんな感じだったのか』程度で直ぐに理解できたが、言いたかったことはラストの数分に全て凝縮されていると思う。
元々この話は映画の通り「水野遥」という女の子が主人公で進行していくはずだった(らしい)。ところが、連載先の編集と話している段階で男性目線で書くことに。連載は好評で無事終了したものの、作家自身の中には1つの「しこり」が残り…
全編を観終わった後になって考えてみると、女性目線で描かれていることの意味がなんとなく見えてくる。
男性側の主役である「村上直樹」は、頭脳明晰、スポーツ万能、眉目秀麗の3拍子揃った『そんな奴いねーよ』という存在。物語の舞台が「北海道一の進学校」ということで原作では主役になりえたが、通常の話なら主人公の敵役などで出そうな男である。もっとも江川達也氏なりのテイスト(お約束といってよいか?)が入った妄想豊かな男でもあるため、非常に身近な存在なのであるが、切り売りが基本の漫画ならまだしも、映画になると「ただの頭の良い(イカれた)変態」にしかならず、下品な作品にしかならない。
ところがこれを「水野遥」にもっていくと、そういった部分が影を潜め、逆に「叙情的な風景」を作り出すことが出来るようになる。「水野遥」という女性の持つ究極とも言える「母性」があまりにも大きすぎるため、「共感を呼ぶ」ということにはならないかもしれないが。
江川監督は、本来の「原作」が辿った不遇に対して決着を付けるのと同時に、80年代の香りがする江川流の「甘酸っぱい青春映画」を撮りたかったのではないだろうか。
あの頃も小説や漫画原作に人気アイドルを起用した映画化作品が数多く出たが、作品として話題になるものは皆無だった。
「同じアイドルを使っても、オレだったらこう撮るよ」
と、暗に自分の才能を見せたいという欲求も含まれていたように思う。

三津谷葉子さんの演技は初めて観たけど、上手or下手という部分じゃなく、「色が無いのがカラー」「何色にでも染まりますよ」といった感じ。自分の思ったとおりの作品を作りたい、と考えているインディーズの映画監督さんには、かなり好まれる方なんじゃないかと。
マスコミ報道では、「三津谷葉子さんの濡れ場」ばかり取り上げがちになっているが、そういったものを期待して観に行くとおそらく「なーんだ」とガックリして帰ることになるので要注意(笑)