2つの不幸

徹夜明けでイベント参加だったので疲労もピークだったが、家に帰り休むまもなくレポート作成に入る。
少し眠気が差してきた23時20分。珍しく遅い時間に実家から電話があった。
こんなときは、きっと、ろくな連絡ではない…案の定、親戚の訃報であった。
2日の夜、母方の大伯父(祖母の兄)が入院先の病院で亡くなったと…もう80代後半なので、大往生といっていい。
確かに哀しい出来事ではあるが、先に生まれたものが先に死んでいく…という流れは、ごく自然の摂理だ。残された者達もその理屈だけは納得できる。
大叔父は厳しい人だったが、早世した祖父の代わりに、遠く離れた地に住む姪の息子である自分を、本当の孫のように気にかけてくれていた。
祖父の思い出がまるでない自分にとっては、祖父と言い換えてもいい、唯一の存在であった。
今はただ、感謝の気持ちしかない。安らかに…合掌。(-人-)


だが、電話口の母の話は、それだけでは終わらなかった。なんと、訃報はもう1つあったのだ…
父方の又従姉妹が、3日の早朝に、遠く札幌の地で交通事故に遭い、亡くなった…と母は憔悴しきった声で、自分に伝えた。
えっ? まさか…? 耳を疑った。
電話を切ったあと、急いで地元新聞のインターネット版を確認する…悪い冗談であって欲しい…
しかし、その思いも虚しく、死亡事故は現実のものとして、報道されていた。


自分がまだ実家に居た頃、従姉妹が連れてきた、まだ赤ん坊だったその娘を、よくあやして遊んであげたことがあった。
人見知りもせず、抱いてやったり、名前を読んだりすると、満面の笑みを浮かべていたことを、昨日のように思い出す。
その後、自分が実家を離れたため、ずっと面識がないままになってしまったのだが、いつか訪れるであろう再会の時を、自分は疑いもしていなかった。


しかし、彼女の時の刻みは、突然、止まってしまった。誰しもが思っていなかった、最悪のカタチで…
彼女はまだ19歳の若さで、たった一人で虚空の彼方に旅立ってしまったのだ。


君は、その目で何を見、どんな娘に成長していたんだろうか?
君は、その口でどんな言葉をしゃべり、どんな笑顔を見せていたんだろうか?
君は、その心の中で、どんな夢を、どんな未来を思い描いてたんだろうか?
どんなに考えても、その答えを君から聞くことは、もう出来なくなってしまったんだね…


君の両親は、本当に君のことをかわいがっていたよ。自慢の一人娘だったんだ。
特に君が、物言えぬ赤子の頃のお母さんの溺愛ぶりといったら、それこそ、こっちが恥ずかしくなるぐらいだった。
子に先立たれた親の悲しみは、自分には解からないけれど、どんな深淵よりも、もっと、もっと、深いだろう。


君は、この世界を、精一杯生きられたのだろうか?
そうであってほしい。今はただ、そう思うことしか、自分にはできない。


逢いたくて 逢いたくて
この胸のささやきが
あなたを探している
あなたを呼んでいる


いつまでも いつまでも
側にいると 言ってた
あなたは嘘つきだね
わたしを 置き去りに


木蓮の涙 」スターダスト・レヴュー

Copyright 1993 UP FRONT MUSIC INC. & JAPAN MUSIC, LTD.